精神科医と法 -精神保健福祉法と指定医-

精神科医というと街中のメンタルクリニックなどの「お悩み相談所の主」

これは占い師か...

(ってこれだと単なる占い師か...)
というイメージを持っている人も多いと思うが、あれはあくまで業務の一部だと思う。

いわゆる「指定医持ち」の精神科医だと、「精神保健福祉法で規定された指定医業務こそが本業」という信念を持っている人は多いように思う。
指定医というのは「精神保健指定医」のことだ。精神保健福祉法(以下、「法」という)という法律で定められている。「法」で決められた業務のうち基本的人権などに関わるデリケートな事柄を執行する際、国から「指定」された医師が行わないと法律的に辻褄が合わないことがおこってしまう。そこで、この指定された医師(精神保健指定医)のことを略して「指定医」という。
要するに、(精神科救急と言われている領域では特に)日本国憲法で保障されている「行動の自由」にある種の制限を加える場合があるが(強制入院などを考えてもらえればわかりやすい)、このときその判断を民間人(私人)が行うと憲法違反になってしまう。これを避けるべく「法」は特別に「指定医」という判断・行為の主体を設定しているわけだ。
だから、指定医は法的資格で、指定医業務を行う場合は、(行政による法の執行という意味合いを持つので)その指定医は公務員とみなされる(いわゆる「みなし公務員」)。指定するのは厚労省であり、業務を依頼するのは、地方自治体の首長となる。
わかりやすい。
ここで間違っても、判断の主体を委員会やらの稟議制にしてはいけない。
そんなことをしていては、現場はまず回らないからだ。
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なにしろ、制限をかける対象は「入院治療の必要性を説明しても納得」しなかったり、「自傷・他害のおそれ」があったり、「自傷・他害のおそれが著しく高」かったりする方々なのだ。
多数決判断のようなものは向かない。


精神保健福祉法自体は、時代に合わせて改訂がなされているのだが、この明快な基本的骨格はそう大きくは変わっていない。

実際の条文にあたると小難しい表現があったり、これまでにも運用上の問題点が指摘されていたりもするのだが、この法の基本的枠組み自体はかなりすっきりとしたものになっていると思う。何というか「紛れる」余地がない。
法が対象とする範囲や判断の主体がかなり明確に定義されているので、実運用上も制度的な面ではあまり迷うということはない。その代わり、それ相応の責任も伴うが。
アナロジーで言えば、適切な資格を持った医師がオペをしても別に「傷害罪」には問われないのに事情は似ている


こういう世界に慣れていると、一般の行政手続法などの運用を見ていると、けっこうイラッとすることもあるのだが、それはおいおい。




猪股弘明(医師:精神科:精神保健指定医)

  (参考)
また、イラストはお馴染み「いらすとや」さんからお借りしました。ありがとうございます。
アイキャッチは、『精神保健指定医レポート作成マニュアル』の表紙を流用してます。



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猪股弘明
筑波大物理専攻卒。新技術事業団(ERATO)で走査型トンネル顕微鏡の開発に従事。横浜市立大医学部を経て医師免許取得。都立松沢病院などで精神科医として臨床に従事。
精神保健指定医。東京都医学総合研究所客員研究員。
日本精神神経学会 ECT・rTMS等検討委員会委員。