開発元移管で色々あったようなので、ちょっと OpenDolphin という電子カルテに関して書いてみましょうかね。
はじめに OpenDolphin というのは、オープンソース(ソースコードが公開されているという意味)の電子カルテで 2010 年頃にはけっこう使われていた。オープンソースであるから、各種派生版も存在していて、商用開発元を経由せずに使われていたりもした。(なお、電子カルテは後述するように尊守すべき3要件というのはあるが、それ自体はプログラム医療機器にはあたらないのでこういう使用をしても問題ない)
私も、開業していた初期の頃、派生版のいわゆる「
増田ファクト 」というものを使わせてもらっていた。当時としてはなかなか導入しやすく、導入書なども Windows にインストールする限りにおいてはなかなかしっかり書かれていたことを覚えている(Mac OSX へのインストールは記載なしだったが)。
ただ、後述するように若干の危うさもあり、自力運用する場合、このままの形態では長くは使えないだろうという予感もあった。
電子カルテの3要件 前にも述べたが電子カルテには3要件というのものがあり、簡単に説明すると以下のようになる。
1. 見読性
医療現場においては、過去のカルテであっても参照されることがあり、必要とあれば「即座に」その内容を表示出来なければならない
2. 保存性
診療録は(紙カルテであっても電子カルテであっても)5年の保存義務が定められており、この間は、復元可能な状態で保存しておかなければならない
3. 真正性
紙カルテの場合、筆跡などで誰が書いたか推測がつくためこれはそれほど問題になることはないのだが(それでも『白い巨塔』でもこの手のエピソードは出てきましたよね)、一般的に電子記録では修正が容易だ。これは安易な改竄につながってしまう。だから、電子カルテのデータを例えばデータベースに保存する場合、「誰が」書いたのか、その後「いつ、誰が」改変(あるいは消去)したのか、わかるような特別の仕組みをつくりこんでおかなければならない
自力運用の問題点 1. や 2. は、導入当時の環境を維持していればさして問題にならないのだが、問題になるのは 3. だ。この機能を電子カルテ本体に装備してしまうと、改竄の温床になるおそれがある。だから、大抵の電子カルテベンダーは、これを別サービスとして提供している(なお、これがけっこう高額なのもクリニック経営上ではしばしばネックになる。「ベンダーがデータを人質に取る」ということがしばしば言われるが、背景にはこういった事情がある)。
また、導入当時の電子カルテの環境をそのまま使い続けるというのも、現実的にはそう多くない。 訪問診療を始めた場合は、システムにある程度の改変が必要になってくるのは想像に難しくない。また、クリニックが拡張し、ベッドを持つなどの場合、電子カルテの乗り換えも検討せねばならないだろう。この場合、「保存性」かつ「真正性」を保持したままデータの移行をおこなわなければならないが、これはけっこう面倒だ。
私が、いわゆる増田ファクトを導入したとき、開発者の増田さん自身に問い合わせたのだが、ここらへんの機能はその時点では提供していないということで(今はどうなっているか当然不明)、ボランティアでやっていることにさらに過剰な要求をするのもおかしな話なので(ただし、
この件 はまったくいただけない)、最終的には
3要件を満たす各種ツールは自前でつくることにした 次第だ。
また、このプロセスで、データ構造なども理解が深まったので、開発ベースも増田ファクトではなく、いわゆる「本家(その時点では LSC)」の OpenDolphin-2.7 に戻している。 さらに、
・沖縄の方の組織で私のバージョンを使いたいというところがあった
・OpenDolphin-2.7 にバグがあった ・公式にはソースコード提供者とはされていない人・機関が作成したコードが含まれていた
という事情があり、修正を加えたソースコードは「一般」公開しておいた方が望ましいと考え、 OpenDolphin-2.7m という名称で GitHub で公開した(現在も公開している)。
というのがそれだ。
インストール方法も
また、
小林慎治 という人(以前は京都大、現在は保健医療科学院に所属)が私のバージョンを増田ファクトベースで増田茂の名前をクレジットしていないから GPL 違反だと主張していたようだが、まったくの事実誤認だ。OpenDolphin-2.7m は LSC 版が元になっており、クレジット方法や配布などに関して開発元の LSC 様からも許可をもらっている。(念のために言っておくと、その後継の OpenOcean というのも許可もらってます)
その後、私は、親族の不幸が主な原因だが自院(
お茶の水バレークリニック )を閉院したため、OpenDolphin2.7m 自体には積極的に機能も付け加えてないし、メンテもそれほどはしていない(なにしろその必然性がない)。
ただし、当時の LSC が XXX Dolphin という名称を他団体で使われるのを嫌っていたことと若干ですが周囲の期待があったため(特にファイルバックアップシステムはそれなりに評価されていた)、
OpenOcean と名を変え 、無償で配布していたことはある。
他にも細かなエピソードはあるのですが、大雑把には、そんな流れです。 少々脱線したが、何が言いたいのかといえば、「電子カルテ」と名のるからには(ガイドラインで定められた)3要件はどのような手段をこうじても実現しておかなければならない、ということです。
最近(地域にもよると思うが 2021 あたりからか?)では、保健所の個別指導あたりでもこの程度の開示は求められることがあるので、もはやこういった機能(途中経過版の抜き出し・修正履歴の出力など)の実装や各種ツールの開発は必須のものになった感がある。
※・・なお、増田ファクトは、以前はシステムクラフトという業者が取り扱っていたのだが、現在は取り扱いをやめているようだ。増田内科自体も閉院したし、アクティブに開発を続けているという話も聞かない。新規導入はおそらく無理でしょうし、技術的な仕様や特徴などの情報も乏しく、(2010年前後ならともかく)現在では勧められない。
開発元移管(LSC からメドレーへ) これで話が終わってれば、私と OpenDolphin との関係も実質的には終了・・・。 になる予定だったのですが、2020の5月(実質的には7月から)、これまで開発を担当していた LSC(ライフサイエンスコンピューティング)からメドレーに開発元が移る、というそれなりの事件があった。
ここらへんが謎なんですが、両者ともにデータ移行がうまくいってないようで、たまに連絡もらってます(facebook 上ではユーザーさんから直接w)。 あとは他にもビジネス用途で使っているところもあり、ここからもたまにですが連絡もらってます。
多分、
何もしないと思いますが (結局、メンテ(後述)。元々は単なる末端ユーザーだし、現在は使ってすらいないですが(笑)。興味はもちろん次世代
OpenOcean の方)、中にはお世辞でしょうが「先生のお力を貸してください」みたいに言ってくれるところもあり、その場合は、ちょっと考え方を変えないといけないかなあとは思ってます。
LSC の OpenDolphin 関連サービス販売終了 なお、現在(2021年1月)では、LSC の OpenDolphin 関連サービスも正式に終了している。
画像は LSCさんのHPより取ってきたが、このページ自体トップページからは飛べない仕様になっている。
また、委譲先のメドレーも OpenDolphin を「推し」ている風には見えない。
まあ、自社開発の電子カルテ(CLINICS)が既にあるからこれは当然だろう。
それに加え、OpenDolphin 自体の開発体制(不具合を修正するのに時間がかかる・サポート体制がそれほど手厚くない云々。
ここ なども参照)やライセンスの妥当性(ソフトの基本的部分に外部プロジェクトのコードが何のクレジットなしにそのまま流用されているなど。『
OpenDolphin -wiki 風解説- 』参照)といった問題がこれまでにもさんざん指摘されており、事前知識もそれほどない段階でぽんっと引き渡されたメドレー担当者がけっこう困っていたことは知っている。
個人的にどう取り扱うか興味があったのだが、結局、
運営などの権利はもつが積極的には普及させない という方針を取ったようだ。
これでローカルで動くオンプレミス版はもちろんクラウド版も商用開発元からは実質的には新規導入はできなくなったと考えてよいと思う。
これはまったくの個人的感想だが、2010年頃までの医療系ソフト領域でのオープンソースの隆盛は一区切りついたような印象を受ける。
余談ですが(データ復旧に関して) 今はもうほとんどないんですが、一時期、数えるほどですが、データのレスキュー(復旧)を頼まれたことがあります。 これは、自力運用組の OpenDolphin ユーザーさんがけっこういたためでしょう。正確な概数はもちろん把握していませんが、医師としてアルバイトで地方へ行くとけっこうな確率でその医療機関に「オリジナル」ドルフィンが稼働していました(笑)。 周辺プログラムをドルフィンと連携する、程度であれば、そんなおかしなことにはならないんでしょうが、中にはついつい好奇心が打ち勝ち、データベースあたりに手をつけてしまい、なんやかんやで過去のデータを取り出せなくなった なんて例もありました。
こういった場合、ドルフィン自体が起動不能になっている場合がありますから、データベースから直接データをレスキューしないといけません。
あとで LSC の営業の方とお話する機会があったのですが、やはり、同じ時期くらいに同じくらいの件数で同様の案件が舞い込んでいたそうです。なお、そのうちのいくつかは増田ファクト案件だったそうです。この頃でもデータ移行ツールなどは配布してなかったようですね。LSCが「LSC版 OpenDolphin と増田ファクトにはデータ互換性はない」と言っていたのはこれが根拠のようです。
大して面白い話でもないと思いますが、たまに
ファイルバックアップシステムとデータ移行ツールをごっちゃにする人がいる ようなので、念のため書いておきました。
ファイルバックアップシステムはドルフィンが稼働している最中に機能するので、やはりこれはテキストマイニング系の開発研究の方向性で活かしていった方がいいと思います(『
OpenOcean 』など参照)。
OpenDolphin HTML/PDF Viewer 最近(2022)、上でデータ移行ツールと呼んでいたソフトを html・PDF 出力形式に対応させました。
おかげさまでけっこう好評のようです。 当初は「データ移行するならデータ移行ツールで十分」と思っていたのですが、確かにデータベース上に符号化して存在していたカルテデータが、レイアウト・文字属性や張り込んだ画像などそのままの形で1枚の html や PDF に落とし込まれ閲覧できるというのは安心できますね。
電子カルテに求められる性能は年々上がってきている ところで、最近、中規模〜基幹病院へのサイバー攻撃が話題になりました。
私がびっくりしたのは、結構な人が「カルテデータはバックアップを取っていたとしても、本システムにリストアしないと復元・閲覧できない」と
間違って理解 していたことです。
中には医療情報系の大学教員でもこう信じている人がいて、驚かされました。
一回でもオープン系のシステムを組んだ人ならこういう間違えはしないと思います。 一般的にシステム内で処理されるデータは(医療情報系に限らず)最終的にはファイルやデータベースなどのストレージに保管されます。オープン系のシステムでは汎用のデータベースを流用している場合が多いと思います。 このとき、データベースは(組み込みなどではなく)一般的なサーバープロセスで稼働 していますので、データベースへの接続情報さえわかっていれば、他のプログラムからアクセスすることができます。
だから、復号したい情報のデータ構造などがわかっていれば、本システムとは別の経路でデータを復元することが可能なわけです。
実際、厚労省の
ガイドライン でも
本システムとは別系統 で「(本システム停止時の緊急手段として)見読性確保のためのバックアップシステム」を準備しておくことが推奨されています。
電子カルテが導入された初期の頃など、とりあえず医療記録が電子化されていれば「電子カルテ」と名乗れたような気もしますが、情報の内容が内容なだけにそれを取り扱うシステムへの要求水準は上がってきているな、と感じます。
OpenDolphin に関して言えば、厚労省の求めるバックアップシステムに相当するユーティリティソフトを持っているのは我々の OpenDolphin-2.7m (系列)くらいになったようです。
など開発。
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