エゴサ -精神科 ECT 関係-

前に書いた『エゴサ』が一部では好評のようなので、ちょっぴりアカデミア要素を入れたエゴサーチw

私のアカデミアっぽい業績は、ECT (ElectroConvulsive Therapy:電気けいれん療法)に関する


Inomata H, Harima H, Itokawa M. 

A case of schizophrenia successfully treated by m-ECT using 'long' brief pulse. International Journal of Case Reports and Images 2012;3(7):30–34.
http://www.ijcasereportsandimages.com/archive/2012/007-2012-ijcri/008-07-2012-inomata/ijcri-00807201288-inomata.pdf

しかないのだがw  要所では引用されている。

ただし、原著自体が英文なので、「猪股」ではなく Inomata あるいは Inomata et al という表記になっている。

ECT-猪股-DLB


一つ目は、レビー小体型認知症(通称、小阪病)では、神経細胞の電気刺激応答に関して Inomata のいうところの「右方シフト仮説」が成立しているんではないか?という指摘(http://dementia.umin.jp/pdf/31/p117-124.pdf)。


ECT-猪股-パルス幅


次のやつは、ECTに関する総説(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjghp/26/2/26_168/_pdf/-char/en)で刺激パラメータ変更の先行研究として言及されてる 。


他にも引用されているかもしれないが、目についたところではそんなところ。そこそこは知られた学会誌に二つ引用されていれば十分でしょう。総合病院精神医学会がおこなった調査によれば、国内の主要なECT施行施設の半数くらいで採用されているらしい。もはや当たり前の手法となった感があるので、引用すらされないという事情はあるかもしれない。

普通だったら、発表当初にもうちょっと宣伝するのかもしれないが、告知は、私が精神神経学会生体医工学会で口頭で発表したことと、ケースレポートにして投稿したことのみ。
これは、(当時としては)けっこう変わった治療法だったため、可能な限り早く査読を通して自分たちの治療にエビデンスを持たせたかったからだ。一般的な普及なんて当時は 1mm も考えていなかった。
松沢病院とECT」という組み合わせは不祥事がおこった場合、マスコミの格好の餌食にされてしまう。もし、何かがおこっても自分たちが行った治療法の正当性を胸を張って主張できるようにそうしたのだ。他者へアピールするというより自分たちの身を守るという動機が強かった。
また、これを発見したのも、松沢の「美しく、かつ、怖い」お姉様方が多数存在する院内某圧力団体(看護部ともいう)に「危険だから」とサイン波装置をすべて取り上げられてしまったということに端を発する。当時、ECTを一手に引き受けていた私が切羽詰まって捻り出した方法論なのだ(ただし、事前に計算機シミュレーションは何十回も行っている。ついでに言っておけば、このとき患者さんの頭部ダイコム画像を散々解析した経験が HorliX 開発のときに役に立った)。


horlixAsSimuPlatform.jpg


だから、去年、学会に数年ぶりに参加したとき、予想以上に普及していて一番驚いていたのは、原著者たち(私と糸川先生)だったのだ。


また、この一連の経緯で感じたのは、いわゆる「狙った研究」・「研究のための研究」の寿命は意外に短いな、というものだ。何かを発見するときというのは、偶然に身を委ねられる精神の柔軟性みたいなものがどこかにないと難しいのかもしれない。




猪股弘明(精神科医:精神保健指定医)    
日本精神神経学会ECT・rTMS等検討委員会委員

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inomata0612

猪股弘明
筑波大物理専攻卒。新技術事業団(ERATO)で走査型トンネル顕微鏡の開発に従事。横浜市立大医学部を経て医師免許取得。都立松沢病院などで精神科医として臨床に従事。
精神保健指定医。東京都医学総合研究所客員研究員。
日本精神神経学会 ECT・rTMS等検討委員会委員。